モチベーション理論を現場で活用している例 星野リゾート 星野佳路さん

仕事の流儀に星野リゾートの星野佳路さんが出演して、リゾート再生をした話が紹介されていた。 タイトルは、「”信じる力”が人を動かす」だった。DVDがこちら文字起こしされて、一部追加されている電子書籍がこちら

モチベーションを高める工夫をいくつも実施されていたので、理論と対比しながらお伝えする。

事例と理論の対比

「決めるのは社員」 「主人公は社員」 ── 星野の哲学は、経営判断を下す場でも変わらない。 『星野リゾート』の場合、通常の会社では役員会に当たる会議に、フロント係でも営業マンでも、社員なら誰でも参加でき、発言できる。  毎月行われる定例の「戦況報告会」で、紛糾した議題があった。ホテルの宿泊料金の見直しである。  料金改定チームが出した提案に対し、反対意見が続出した。料金の改定は、リゾート経営にとって重要な課題。しかし星野は、自ら判断を下そうとはしない。結論は、社員同士の議論に委ねる。 「どうしますか?」  議論の最中、星野は何度も問いかける。弱気なわけではない。トップダウンではなく、自分たちで出した結論なら、社員も納得して頑張れるはず。だから、任せる。

最も正しいコンセプトをつくるよりも、どんなリゾートになりたいかということを社員自らが決めることのほうがすごく大事だと、私は思っているんです。つまり、正しさよりも、共感度の高さでコンセプトを選ぶわけです。

自ら決めるというのは、自己決定理論としても確立している、モチベーションを高める方法である。(Deci 2000)

リゾートでの仕事の場合、そこで働く人のモチベーションを上げるのは、まずコンセプトに共感していること、そしてもう一つは、お客様に喜んでいただくことなんです。

こちらで紹介されている「コンセプトに共感すること」と「お客様に喜んでもらうこと」

「コンセプトに共感すること」というのは直接的な理論としては、目標感染(Aarts, 2008)に関係するのではないかと思う。今回の星野さんの話でいうと、自ら決めることを補助するための手段として共感を大切にしているのでないだろうか。

「お客様に喜んでもらうこと」というのは、他者思考動機(真島 1995)が当てはまるのではないか。 他者思考動機は、「自己決定的でありながら、同時に人の願いや期待に答えることを自分に課して努力を続けるといった意欲の姿」モチベーションの12の理論では紹介されている。

具体的な例は以下のようなものではないだろうか。

子どもたちが「楽しい!」と笑顔を見せたときや、ご両親に「こんなにゆっくり食事をしたのは久しぶりです」と言っていただいたときに、スタッフのモチベーションはものすごく上がります。ですから、お客様に褒めていただくことで自分たちのやる気を維持している、という面もすごくありますね。

私がここ一五年ほどで学んだことの一つは、やはりお金はモチベーションを高めるものにはなりきれないということ。一方、仕事の楽しさはモチベーションアップにつながります。

こちらでは、お金と仕事の楽しさを比較しながらモチベーションについて言及している。 モチベーションの理論としては、お金は外発的な意欲を高める効果があるのだが、星野さんの何らかの経験から、お金をモチベーションを上げるために使うのは有効ではないという考えの表れであろう。お金に関しては、短期的な成果に関しては利用できるものなので、適切に付き合っていきたいところである。

生き生きと働く従業員の姿を見て、星野の中に一つの確信が芽生えた。 任せれば、人は自分で考える。そして、楽しみ、動き出す。

この「任せる」という方法こそが、仕事・マネジメントにおいて自己決定を促す方法であろう。 また、任せられることに関しては、他の心理的な効果も期待できるのではないかと考える。

星野さんの経営哲学

経営として、お金を儲ける仕組みはいくらでもあるだろうが、星野さんの経営哲学というか、重要な価値観として以下のようなものがあるからこそ、今回の従業員のモチベーションを上げるという方向に進んだのではないだろうか。

スタッフが楽しんでくれているかなということはいつも考えていますね。それは、私にとって一番重要なことなんです。

たくさんの社員から「あの人と仕事ができてよかった」「あの人が社長の会社で働けて楽しかった」と言ってもらえるのが、私は一番うれしい。それが自分のめざす姿なのかもしれません。

参考文献

その他の気になったところ

プロセス主義として、プロセスに注目していることも有効な手法であることを解明したい。

その結論が正しいかどうかは、ビジネスの世界においては、ある意味、誰にもわからないんです。「やってみないとわからない」という部分がすごくある。だからこそプロセスを大切にするということなんですね。 その意思決定に至るまでのプロセスが共有されているということも大事ですし、論理的に構築されているということも大事ですし、必要な情報をちゃんと把握したかどうかということも大事です。そこのところを、私は確認したいんです。

以下のように休憩室で会社の批判として多いものをパターン化しているからこそ、それに適した組織体制にできるのではなかろうか。

私がこの業界に入ってからの経験によると、休憩室で社員が会社の批判をする内容というのは、だいたい二種類です。一つは、「なぜあの人のほうが給料が高いのか」。そしてもう一つは、「なぜあの人が自分の上司なんだ」。「あの人は現場がわかっていないし、本当にやるべきことをやれていない。自分がやったほうがよっぽどいい」ということです。