自尊感情の心理学2章「自尊感情と本来感」の読書メモ

概要

自尊感情の心理学2章があまりにも良い内容だったので、読書メモを残す。

基本的には、自尊感情といっても、優越感と本来感に分かれて、その要因について検討している。

本の中から気になった部分をまとめ、解釈や感想を残す。

諸注意

同じ用語が、自尊感情と優越感とで説明されていて、表記の揺れがあるかもしれないが、元の本の章に出てきた意味として利用する。

内容

自分らしさと自尊感情

・「自分っていいな」と感じることは、自尊感情 ・「自分らしくいるな」と感じることは、本来感

自尊感情があって本来感がない場合は、「自分はいいなと感じるけど、自分らしさがない」 本来感があって自尊感情がない場合は、「自分らしさはあるけど、そんな自分を肯定できない」

自分らしくある感覚の概念化

自分らしさを感じるというのは、アイデンティティ(同一化)を処理するのは過程は重要そう。 アイデンティティは、何らかの属性や特徴に自分を位置づける認知的な処理。

しかし、そうした概念で捉えきれない。例えば、プロボクサーになるのが夢なのに、テレビをみながらポテトチップスを食べているのは、自分らしくないと感じから。

日常生活の中で「自分らしさ」とは、なんとなくの感覚。

自分らしさの感覚は、同一性や自己概念の認知処理の他に、体の調子や、気分、人間関係、生活上での出来事が関係する。それらを複合して、自分らしい、らしくないという感覚になる。

「自分らしい」と感じられていれば、今の自分の状態は悪くないようで、こうした生活や、行動を続けていく動機づけになる。らしくないと感じれば、何かおかしいから立ち止まって見ようとなる。自分らしさの感覚は、自分が納得できる方向になっているかの感覚かもしれない。

本来感尺度

人が自分らしさを感じているときに一般的な発言を集めた項目集。当てはまる度合いを5段階で判定。

・ いつでも揺るがない「自分」をもっている ・ いつも自分らしくいられる ・ 個人と自分を比べて落ち込むことが多い(逆転) ・ 人前でもありのままの自分が出せる ・ 自分のやりたいことをやることができる ・ これが自分だ、と実感できるものがある ・ いつも自分を見失わないでいられる

伊藤、小玉、"自分らしくある感覚(本来感)と自尊感情がwell-beingに及ぼす影響の検討"

自尊感情と本来感

大学生に調査した結果、自尊感情と本来感はともにウェルビーイングを促進していた。

本来感は自律性を促進するが、自尊感情は自律性を阻害する可能性がある。 「本来感を統制した自尊感情は、自分自身でものごとを判断・行動できなくさせる」と解釈できる結果が出た。ここから、想像をふくらませると、「自尊感情ばかり追い求めるあまり、人から褒められたり競争で勝つことに注力すると、自分を見失う可能性がある」と考えられる。

本来感は、主体的に自分の可能性を追求していこうとする意識(可能性追求意識)や、今よりも今よりもよい自分になっていこう という意識 (現状改善意識)と いった自己形成の意欲につながる。しかし、自尊心にはそういったことはない。

自分をいいと感じるその寄る辺

自尊感情 (あるいは自己価値感)が,何らかの物事にどれだけ依存しているかをとらえる概念として、随伴性自尊感情 (contingent seliesteem),または自己価値の随伴性 (contingency of seliworth)がある。

大学生に対して自尊源を調査したら以下の項目があった。

・対人関係 ・親密な関係 ・家族とのつながり ・友人とのつながり ・恋人とのつながり ・関係の恩恵 ・社会的な評価 ・他者からの受容 ・関係のスキル ・対人調和スキル ・意思表出スキル ・個人特徴 ・まじめさ ・やさしさ ・外見 ・知性 ・運動能力 ・芸術的感性 ・生き方 ・打ち込む活動 ・将来の目標 ・成長への努力 ・過去の頑張り

優越感・自尊感情・本来感と自尊源

自尊感情は、本来感と優越感に分かれている。

本来感は、内的に定着した資源に依拠していて、優越感は、外的な成功や評価に依拠している。

内的な自尊源は、将来への目標や、成長への努力。 外的な自尊源は、知性、外見、社会的な評価。

自尊源から自分らしさを支える

本来感を向上するための支援としては、以下のプロセス。

・将来の目標や、成長への努力に当人に目を向けさせる ・一緒に考え取り組んでいく

しかし、以下を気にすると、優越感にしかアプローチするできない。 ・知性 ・外見 ・他者からの評価

自尊感情を支える源を、外的な評価や能力で左右される不安定なものから、本人の内的な感覚や価値観などの安定したものに比重を変えていくこともできる。

そんなとき、自尊感情や本来感の低い人と、「どうしたのかな?」と時間をかけて一緒に考えることが助けになるだろう。

本来感は、誰かとつながっていると感じたり、自分の気持を誰かに伝えられることに関係している。 親密な誰かと一緒に居たり、暖かさや自由な気持ちで関われること。

本人の気持ちや悩みを安心して話してもらい、本人がどこにつまずいているか一緒に考えること自体が、その人らしさを取り戻すことに繋がる。 どう生きたいのか、どんな目標(将来の目標自尊源)にしたいかを考えたり、今現在のその人自身を肯定したり(成長への努力自尊源)当人が周りの人とどうやったら上手に付き合えるか、気持ちや想いを伝えられるか(対人調和、意識表出の自尊源)を支援することで向上するかもしれない。

解釈

「自分らしくある感覚の概念化」の解釈

自分らしさとは、辞書的には以下になる。

意味:「その人独特の性質・性格」 類義語は、以下。

・ 個性 ・ 持ち味 ・ 独自性 ・ 特異性

引用:https://thesaurus.weblio.jp/content/%E8%87%AA%E5%88%86%E3%82%89%E3%81%97%E3%81%95

こちらの文書で扱われている「自分らしさ」は、自分らしさを発揮している状態、自分の思う理想的な自分らしさ、のように取られると理解しやすいかもしれない。

自尊感情と本来感」の解釈

仕事の観点と結びつけると、求められることをやるのが短期的に一番楽に成果が上がるから、上の言いなりに仕事をする人が多くなるが、これは自律性を失わせると理解することが出来るのではないか。

とはいえ、それまでの生活で自律性を発揮することがなかったから、そのまま自律性のないまま仕事をするときに、優越感、自尊心を満たす方向に進むしか選択肢がなくなってしまうのかもしれない。

辛い仕事をし続けるループにはいるのかもしれない。 自分をいいと感じるその寄る辺

「優越感・自尊感情・本来感と自尊源」の解釈

自尊源も、内的と外的に分類できる。

これは言い換えると、本来感はプロセス主義であり、優越感は結果主義であるのではないか。

優越感を満たそうとすると、結局の所は他人との比較になるし、結果になる。 上を見続けると、どこまでも上がいる状況になり、難しい。 世界で1番になれるものがあればいいが、そうでなければ、どこかで妥協して優越感を確保することになる。

それに比べて、本来感は、プロセス主義のように捉えられる。 皆が優越感を満たす状況にするのは難しいが、本来感を満たすことは可能であろう。

「自尊源から自分らしさを支える」の解釈や感想

簡潔にいうと、自分の目標に対して努力すること、他者との関わりに対して、寄り添いながら支援することで、本来感を得る支援ができるのではないか、ということ。

コーチングでいう目標についても、結果を大事にするものは行き着く先が優越感になり、自律性を失うことにつながってしまうかもしれない。 なので目標は、結果にならず、プロセスを見られるように支援する。

本人の気持ちや悩みを安心して話してもらい、本人がどこにつまずいているか一緒に考えること自体に意味があるので、その前後の本来感について確認したい。 気持ちや思いを伝えられるようにする支援も試したい。

その他参考になりそうな情報

近い概念をまとめて整理してくれているこちらの論文が良かった。

CiNii 論文 -  本来感研究の動向と課題 (創立70周年記念特集号)

f:id:sanryuu:20190311182611p:plain
自尊感情の区別と本来感の関連 論文より。

近藤先生の基本的自尊感情と社会的自尊感情

こちらの書籍では、本来感と優越感という分割の仕方をしていましたが、 近藤の先生が「基本的自尊感情」と「社会的自尊感情」という分割をされていたのでこちらで共有

  自尊感情には、基本的自尊感情と社会的自尊感情の2つがあります。   基本的自尊感情とは、「生まれてきてよかった」「自分に価値がある」「このままでいい」「自分は自分」と思える感情です。他者との比較ではなく、絶対的かつ無条件で、根源的で永続性のある感情です。これが弱いと自分自身のいのちの大切さに確信が持てません。   社会的自尊感情とは、「できることがある」「役に立つ」「価値がある」「人より優れている」と思える感情で、他者と比較して得られるもの。相対的、条件的、表面的で際限がなく、一過性の感情です。

[KKS]健康 子どもの心とからだの健康

肝心なのは、社会的自尊感情は他者の関わりによって変動するものであり、基本的自尊感情は揺るぎないものであるということです。