現場でよくある経験学習だけ実施する問題点を考える(将棋の上達から考察)

概要

私は、実務では理論をひたすら勉強しながら実践を繰り返すので、経験学習だけに頼ることはあまりしない。理論を学ぶほうが早く結果を得られるからだ。

しかし、将棋をやっていると、結果を出すことよりも対局を楽しむことに比重を置いていたため、基礎的な勉強(詰将棋、定跡、手筋を覚える)をせず、経験学習(対局後の検討、振り返り)のみ実施していた。そのため、上達が非常に遅くなっていたため、基礎的な勉強をするようにした。結果として、非常に早く上達するようになった。

今回は、将棋を例に、基礎的な勉強をすること得られた能力と、勉強をしなかったことで上達を遅くした理由を気づいたものを列挙し、仕事での経験学習だけ実施する問題点を考える。

本文

将棋の経験

経験学習としてやっていたことは何かというと、将棋を指した後にアプリで解析をしながら自分の上手くできたところ、失敗したところを確認していました。具体的には、指した後にアプリでの形勢が悪くなれば失敗、良くなっていれば成功とし、失敗したところに関してはアプリの推奨を確認して覚える形でした。

その結果どうなったのか。

同レベルにしか通用しない手を学ぶ事になりました

同レベルにしか通用しない手を学ぶのは、アプリで検討しても気づくことができないこと、こちらが間違えても相手が間違えれば形勢が悪くならないので発生します。

人同士の対局だとこちらが悪い手を指しても、相手が見たことがない手だと先を読む能力が足りず、対応に間違えやすくなります。それが比較的低い相手だと、多く出現します。

そのため、強い相手には通用しない手を打っても、結果的には形勢が良くなったり、勝ったりして強い相手に通用しない手を覚えてしまいます。 アプリの形勢では、1手ごとに大きな失敗をするとわかるのですが、数手使って失敗したときにはアプリによっては指摘がされづらかったりします。こちらが失敗しても、それに対する対応を相手が失敗した時は、何が問題だったか気づけ無いことが多いです。

それが基礎的な勉強をしたらどうなるのか。

高いレベルに通用する手を学べる

なぜ、そう言えるのか。 基礎的な勉強として、定跡の勉強を上げると、プロが高いレベルで将棋をした結果得られた互角に戦える進め方が提供されている。もし、相手がその手順に乗っ取らずに攻めてきた場合には、返し技があり数手先に損をしてしまうようなことがある。 しかし、そのために先に損をしないといけない場合が多く、短期的に大きな損をしないような考え方をしていた場合には得ることができない結果になる。

また、詰将棋においても同様で、勝利条件である相手の王様の行き場をなくせばいいところに最適化するため、最後の状態がイメージできるので途中で短期的な損をしながら、勝ちまで進める手順を学ぶことができる。しかし、長期視点を持てていないと短期的な状態に最適化して勝ちを逃してしまうことが多い。 詰将棋をすることで、勝利条件まで逆算することで必要な損をしやすい。

ここから得られたものを抽象化すると、「環境要因に対して最適化してしまうこと」から避けられることがわかる。 そのための対策としては、熟練した人が長期的な視点において考え抜いた基礎的な勉強をすることが、上達するために少ない労力で結果を得ることができるといえよう。

そのうえ、教材として優れているものであれば、学習者が網羅的に要素を学ぶことができるように設計されている。

将棋の場合は、論理だけで構成されているため、科学よりも先人の知恵の確かさが高い。 例えば、科学であれば、天動説が正しいとされていたが、地動説に置き換わるということもあるし、社会科学の例だと別の実験では再現しないなどということもよくあるのが異なる。

現場への適応

現場では、経験学習を声高に推奨されているが、何も枠組みとする理論がないと環境依存しやすいのではないだろうか。

それは、何度も失敗しながら覚えるのだろうが、「なぜうまくいかないか分からない」状態を多く体験し、他の人の経験から学んで失敗することも多いだろう。自分でうまくいくことを探求する能力は必要であるが、基礎的な理論を学んでから出ないと、車輪の再発明をすることにもなる。

経験学習の研究としても、理論を学ぶことは推奨されている。しかし、経験学習重視の人は、そこに関する意識が弱く経験を活かしきれていないことも多い。 これが発生しやすい原因は、理論を学ぶと成長が加速するのであって、理論を学ばないと成長しないわけではないからであろう。前に進まないのが当たり前、低速で進むのがたり前だと考えていると、理論を学ぶことに気づくことは難しい。解決策を知らない人は課題に気づけないのである。 

また、同じ部署などコンテキストが同じでないと問題が解決できない場合、自由市場に自分を投入できないため市場価値を上げることも難しい。

IT業界であれば、表面上の仕組みを学ぶだけでも大きく成長するので、勉強会という形で学ぶ場が提供されていることが多い。