『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』を読んだメモ
松尾睦先生の著書、『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』を読んで多くの学びがありました。ざっくりと全体をまとめます。
成長とはなにか
成長とは、業務の遂行能力としての能力的成長と、仕事に対する考え方の精神的成長がある。
- 能力的成長は、熟達と呼ばれる分野
- カッツは仕事に必要な能力をテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルと提唱、具体的なスキルは職務の階層による。
階層が異なるスキルを身につけるには、経験から学ぶ力による。
精神的成長には、成長したいという自分への思いと、喜んでもらいたいという他者への思いがある。若いうちは前者が強いが、優れた人は後者も強くなってくる。
過去の成功した手法に頼りそれを強化して対処しようとする能力的惰性が発生することがある。そのときはアンラーニングが必要
経験から学ぶ
- 成人における学びの7割は仕事経験、2割は他者の観察やアドバイス、1割は本や研修
- 仕事経験は直接経験、それ以外を間接経験と呼ぶ。
間接経験は、直接経験を振り返ったり意味を考える上で役に立つ。
管理職が成長したきっかけは、その人にとって新規性の高い仕事をしたとき。初めての仕事や不慣れな仕事など。
他者を観察し模倣することで知識を得ることを社会的学習と呼ぶ。
コルブの経験学習モデル
- 具体的経験、内省、教訓、新しい状況への適応
具体的な事例だと、バレリーナは、舞台のステップを1つ1つ振り返る。スポーツ選手は、練習ノートをつけるなど。成長する営業マンは、良い結果を得られても自分のイマイチなところを見つけて改善するが、成長しない営業マンは、結果が良かったか悪かったしかみないので良くない。
熟達研究のエリクソンらは、良い経験学習の条件を提示。課題が適度に難しく明確、実行結果へのフィードバックがある、誤りを修正する機会がある。
これにあったコーチのアドバイスのポイントは、教えることを1,2に絞り簡略化、頑張ったらできることにする、本人が結果を実感できる。
経験から学ぶための三つの力
経験は自分でコントロールすることは難しい。顧客、上司、同僚は選べない。
クランボルツのキャリア研究では、どんな仕事をするかは偶然決まる、学習の機会になるかどうかは仕事の姿勢が決める。
経験から学ぶための要素は、ストレッチ、リフレクション、エンジョイメント
ストレッチとは、問題意識を持って挑戦的な新規性の課題に取り組む姿勢。
- リフレクションは、行為中・行為後に内省と、「問題の本質」や「この方法で良いか」の試行錯誤の繰り返し。
エンジョイメントは、仕事に意義ややりがいを見つける姿勢。
インタビューを元にデータを作成。インタビューは、グラアンデット・セオリー・アプローチ(データから理論を生み出す研究手法)
ストレッチ
- 大きな仕事を受ける前に、地道な仕事で土台を作る。
- 与えられた業務から工夫して期待以上の仕事をして次のストレッチな仕事を貰う。
- 得意なことを活かして成果につなげる。
リフレクション
- 行為の中のリフレクションの質で行為後のリフレクションの質が決まる
- 他者からのフィードバックを行為後のリフレクションに利用する
- 鵜呑みにせず取捨選択して本質的なものを受け入れる
エンジョイメント
- 面白い仕事はなかなか無い、つまらない仕事から面白さや意義を見つける
- 興味関心がない場合は背景を考え自分なりの目標設定し仕事を意味付けする
- 今は関心がなくても後から来る喜びを待つ
ストレッチのコツ
- 背景や意味を考える(「なぜやるのか」「いかに効率を上げるか」)
- 他者を模倣しながら、疑問を持ち自分で考える
- 忙しいから振り返る時間が取れない場合は、最中に振り返るだけでもやると良い
リフレクションのコツ
- フィードバックは、言葉だけではなく顔つきや雰囲気も含まれる
- 組織からフィードバックをもらいづらい場合は、組織の外からフィードバックを得る
- お客さんに、なぜ買ったか確認するのも良い
- 指示されたとしても本当にそれが1番良いのか、自分ならどうするか考える
- 意見を聞いて、それを元に自分の意見を投げ、相手の反応を聞く
- 批判に無批判なのではなく、批判の本質を掴み自分の行動を修正する
- 人は批判に対して、かわそうとしたり、他者に責任をかぶせる「防衛的思考」になる
- 防衛的思考を防ぐには、自分の能力を高める「学習思考の目標を持つ」
エンジョイメントのコツ
- 知的好奇心を持つと偶然の機会をキャリアに活かせる
- 外発的なものでなく、関心、楽しみ、満足、挑戦に動機付けられていると創造的になる
- 関心があるから没頭するだけでなく、没頭することで関心が高まる
- 一見つまらないことでも我慢して続けると面白さが見えてくることがある
- 仕事の背景を考えて意味付けをする
- 上からの目標に受動的にならず自分で目標設定する
- 登っているときは辛いが登頂したときに達成感の高い登山に似ている
- 経験の重要性やありがたみは後から気づく
- 仕事から得られる「即効的な喜びや楽しさ」を期待しない
- やりたいことにこだわりすぎず、サラリーマンはこういうものだと腹をくくる
「思い」と「つながり」
経験学習の効果を高めるために必要な要素として、内からのドライバーである「思い」と外からのドライバーである「つながり」がある。 思いとは、仕事をする上での価値観や大切にしている考え方で、自分の経験を意味付ける働きをする。 つながりとは、メンター、ライバル、ロールモデルなど、刺激や支援を受ける対象。
思い
- 経験学習をドライブする思いには、「自分への思い」と「他者への思い」の二要素があり、両方必要
- 「自分への思い」は、認められたいと思う「業績目標」と、成長したいと思う「学習目標」に分けられる
- 「学習目標」は、それだけで成長に繋がるが、「業績目標」はそれだけでは成長に繋がらない
- 「業績目標」だけ高い人は自分の成績を上げる事に注力してるからネガティブなフィードバックを受け入れづらくなる
- 「他者への思い」は、「他社や社会の役に立ちたいと感じる」気持ちで、長期的に業績を上げる動機づけになる
つながり
- キャリアの研究では、個人の成長に影響を与える啓発者との関わりを「発達的ネットワーク」という
- 「発達的ネットワーク」から得られるものは、「キャリア上の支援」、「心理的支援」、「ロールモデリング」
- 「キャリア上の支援」は、仕事上のアドバイス、昇進昇格の後押し、挑戦的な仕事の提供
- 「心理的支援」は、同調、共感、励まし、気晴らし
「ロールモデリング」は、仕事上の倫理観、価値観
メンターと話すことで、知識のチップがつながっていく
「発達的ネットワーク」を構築するために、「職場外から意見を聞く」、「誠実に付き合う」、「発信して相手を引きつける」
- 「職場外から意見を聞く」は、多様なネットワークを構築するために、職場に限らず領域の異なる人と関係を持つようにする
- 「誠実に付き合う」は、自分の利益にこだわらず嘘をつかない。
「発信して相手を引きつける」は、自分で考えたてから意見を発信し、賛同できない時も記憶の片隅に留めておく
「社会的交換理論」によると、情報、関心、受容は「社会的報酬」である。
学ぶ力を育てるOJT
PDCAのフローにおける上手い指導者の接し方
- P計画:高い目標に挑戦するように励ます
- 高い目標を立てさせる
- 成功をイメージさせ
- 成長への期待を伝える
- D実行:話しやすい雰囲気で進捗確認
- 日常的に声掛けをする
- 定期的に個別で話を聞ききる
- こまめな話し合い
- C評価:成功や失敗の原因を考えさせる
- 成功と失敗の要因を考えさせる
- 成功と失敗のパターンを認識させる
- より良い方法を考えてもらう
- A改善:良いフィードバックと改善ポイントを伝える
- 結果によらず労をねぎらう
- 良い点を先に伝えてから課題を伝える
- 成長したと感じるところを伝える